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中世哲學

第二十二章 敎父時代

《敎父時代の歷史。》〔一〕歐洲に在りて通常中世紀の哲學と稱するはスコラ哲學なり。スコラ哲學は基督敎會の敎理を基礎としたるもの而して其の敎理は其の敎會の歷史上敎父時代と名づくる時期に於いて略〻其の形を成したるものなるを以てスコラ哲學史に入る前に其の準備として敎父時代の簡略なる歷史を叙述すべし。

《元始基督敎の要旨、敎理組織の起こりし所以。》〔二〕基督敎はもと猶太敎より起こり其の初めに當たりては些も學術又は哲學上の思想を混ずることなくして單純なる宗敎的感想によりて立ちしなり。其の根本觀念は猶太敎に謂ふ造物生なる獨一神を萬民の父と見、而して人間は凡べて兄弟にして神卽ち天父に護らるゝものなりと見るにあり。人間は神に愛せらるゝ者なれば彼れを父として敬愛し又互に兄弟として相愛すべき筈なるに罪惡の心を起こして天父を忘れたり人間は須らく其の罪惡を悔いて天父に歸るべしといふ、是れ即ち基督の說きたる敎の要旨なり。基督はまた當時猶太の祭司及び