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Page:Onishihakushizenshu03.djvu/345

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一種の萬有神敎と稱するも妨げなかるべし。ヘーラクライトスが萬物不斷に流轉しながら其の中に變はらざる道(法則)あるを說ける如くストア學徒もまた一元論を唱へて宇宙は一元の働きなりとし其の一元は一面物質なれども他面道理を具へ目的を具へたる精神なりと說き、宇宙の一致と調和と美とを說き、また天地萬物に通ずる法則が凡べてを支配して遺漏あることなきを說くに力を用ゐたり。宇宙の大法といふことはストア學派に於いて忘るべからざる主要の觀念なり。盖しロゴスの論は此の學派に於いて甚だ肝要のものたる也。

《靈魂論。》〔六〕地上に於いて最も高等なるものは人間なり、人間の靈魂は宇宙の神火の一部分を受けたるものに外ならず、人間に於いて最も尊き理性は宇宙の理性(言ひ換ふれば神)の宿れるものといふも可なり。個人の靈魂が死後も尙ほ存在するか否かに就きてはストア學派に一定の論なし、或は凡べての人の靈魂は死後になほ存すと云ひ或は賢者の靈魂のみ死後に存すと說く等の異說あり。

《自然と理性。》〔七〕さきにも云へる如くストア學派の重きを置けるは倫理の論にして論理及び物理の論は之れに對しては第二等の價値を有するのみ。ストア派の道德論