Page:Onishihakushizenshu03.djvu/330

提供:Wikisource
このページは校正済みです

第四期 倫理時代

第十六章 倫理時代の大勢

《希臘の衰頽。》〔一〕希臘哲學の絕頂と稱すべきアリストテレースの時代は政治上より見る時は希臘の已に大に衰頽に傾ける時なりき。他の諸國に於いても屢〻其の例を見る如く希臘に於いて哲學の隆盛は政治、文學、美術等の隆盛なりし時代に後れたり。アリストテレース學派の勃興したりし頃は已にアレクサンドロス大王起こりて四方を征討し希臘の市府は政治上の獨立を失ひたる時にして此の事は希臘人の生活と思想とに大なる影響を與へたりき。盖し希臘國民が生活の中心は政治的活動に在りき。各市府各〻其の獨立を維持して各市民等しく政治に參與することは希臘人殊に其の文化の中心なる亞典市民を活動せしめたる大原動力なりしに今や彼等は政治上の獨立を失ひてマケドニアの權下に服從するの止むを得ざるに至りぬ。又かく外より大打擊を受くるに先きだち希臘の政治は內部に於いて日にまし腐敗を重ねつゝありき。希臘文化の花と呼ばれたりし亞典の歷史は其