Page:Onishihakushizenshu03.djvu/269

提供:Wikisource
このページは校正済みです

定論と見做されたるは恰も五常又は四德の說の儒家に於けりしが如し。プラトーンは尙ほ說いて曰はく、個人の德を修むるや唯だ孤立せる個人としては其の實行を期すること頗る難し、是れ國家の必要なる所以なりと。盖しプラトーンの道德論は其の國家論と相離れたるものにあらざる也。

《其の國家論、國家の目的、國家を組織する三階級。》〔二八〕プラトーン以爲へらく、國家は其の目的に於いて道德的なるものなり、其が眞正の目的は國家を組織する個人を敎育して有德なる生活を爲さしむるに在り。國家その物が有德なるに至りて始めて凡べての個人をして有德ならしむることを得べし。國家の道德的生活は恰も個人の道德的生活を大にせる如きものなり。故に智者の階級を以て國家組織の最上部となし、次ぎに智者の定めたる所に準據してそが實行に任ずる役人及び武人の階級あり、最下に農工商等、職業を營むものの階級あり。國家は此の三階級によりて組織せらる。立法の權を握り治平の策を講じて國家を統御するものは第一階級なる治者にして、其の指定に從ひ內ち法律の實行を計り外か外患を防ぐは第二階級なる文武官吏の職分なり、而して生產の事に從ひ其の業に安んじて社會に其の財を供する者は第三階級なる