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る新哲學を打ち立てたり。在來の學說中稍〻プラトーンの大組織と肩を比べ得べきものは時代に於いても彼れに接近したるデーモクリトスのアトム論あるのみ。

《プラトーン學の大體の趣向。》〔五〕ソークラテースは哲學の硏究の精神、方法に於いて新生面を發揮したれども未だこれを特に硏究法としては說かざりき。プラトーンに至りては硏究法の論理上の手續きは其の師に於けるよりも更に明らかに自覺せられたり。されど前にも云へる如く彼れの著作は大抵對話篇にして論述する事柄を嚴密に區劃せざるが故に其の哲學組織の部分順序等に就きては彼れ自ら明示する所あらず。唯だ其の所說の全體を見、また後にアリストテレースに至りて更に明らかになれる所の區別より見ればプラトーンの哲學は之れをディアレクティック、物理論、倫理論の三部分より成れりと見て可なるべし。但し此の三部分はプラトーンが哲學の組織に於いて皆同等の價値を有せるにあらず後にも陳ベむとする如く物理論は他の二部分に對して寧ろ附屬物たるの位置に在り。プラトーンは數學を貴びたれどもそは唯だこれを哲學硏究の準備と爲したるにて哲學の一部と見たるにあらず。彼れはまた音樂及び體操を以て吾人が心身の修養に缺く可からざるもの