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く四方に波及し今尙ほます外圍の部分をその旋渦中に捲き込みつゝあり。或史家は案ずらくアナクサゴーラスの說に從へばヌウスは唯だ一箇處のみならず處々に運動を生じて數多の世界を形づくれる也と。混沌たる物質は際限なく擴がりその中些の間隙をだに存せず、即ち彼れはエレア學說に從うて虛空の存在を否める也。さてヌウスの起こしたる旋動によりて先づ稀薄、乾明、暖輕なる物と濃厚、濕暗、寒重なる物と相分かれたり。前者をアイテール(αἰθήρ)後者を空氣(ἀήρ)と名づく。ヌウスの起こしゝ旋動によりて濃く重きもの中央に集まり稀く輕きもの周圍に散ず。中央なる濃重のものより水、土、石を排洩す。最初ヌウスの起こしゝ旋動繼續して大地は今尙ほ廻轉す。而して其の廻轉によりて飛び去りし幾多の石塊アイテールの境に入りて熱熾せるが日幷びに星なり、こは隕石を見て知るを得べし。隕石等の證に徵して宇宙を組成せる物質の天と地と相ひとしきを論じたるはアナクサゴーラスを以て嚆矢とす。

大地は形圓柱の平たきものに似、空氣に載せられて世界の中央に靜在す。諸天體は皆大地の周圍を轉廻す。月は日光を反射して照る。月蝕は大地が日光を遮る