Page:Onishihakushizenshu03.djvu/116

提供:Wikisource
このページは校正済みです

とぞ。惟ふにこれはアナクシマンドロス以來已にしば現はれし寒熱對峙の說を四元素に應用したりてそを熱なる方と熱ならざる方とに分かちて相對せしめたるものならむ。

エムペドクレースは四元素の性質については詳說する所なし。唯だ火を光熱あるもの、風即ち空氣を透明にして流通するもの、水を冷かにして黑きもの、地を重くして堅きものといひしに止まる。此の四元素の各〻が全世界に存在する總量は相均しけれど其の個々物に於ける量は同一ならず、又一個物には必ず四種の元素の悉く混和せりといふにもあらず。エムペドクレースは虛空(即ち物體を以て塡充されざる空間)の存在することを說かず、此の點また彼れがエレア學に據れりし所也。

《四元素を動かすものは何ぞ。》〔三〕斯く萬物は皆地水火風の離合によりて其の形を或は現じ或は沒するものなるが、何物がよく此の四元素をして或は和合し或は離散せしむるぞ。四元素は皆不生滅不變化にして恒に其の自性自體を保持するものなれば所詮彼等みづから離合集散せむやうなし。離合せむには動かざるべからず、而して彼等は不變恒有の自性を保持するものなれば何故にその動くかを解する能はず。こゝに於