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念忽ち生じ、中にも上たる身のうへに專心を付べき事あり、國郡數多領し數萬人を召仕ふ事、先祖より代々限なき厚恩なり、さあれば譜代相傳の者共、惠は申に不及、其代々に取立、恩顧蒙りし輩、男女に限らず、皆々同じ事也、上の心は毛頭隔てなくても萬端心得違故身を引不㆑叶も、不忠不義に似たる輩は自分々々の身より出せる事にて是非に不㆑及、但し上の存念未至らざる內は、斯の類もあるまじきものにてなし、然るに部屋住の時分思立、篤と熟せず、心まはりて我への仕形おろそか成りと存違、正體もなき事を宿意にはさみ、其返報をすべきに思ふ類、是全く匹夫の所存にて言語に述がたき淺間敷心持成べし、唯々親疎なく平等の憐愍せずしては叶はざる義、第一孝行の眞實天理の本意より生ずる事也、我如㆑是の通りならば子々孫々も又々右の心を受續て、長久おのづから上下共にひとしかるべし。
右此卷書に述候處は、條數を以て、急度號令せしむるにあらず、人々常に座右に差置、具に我本意を知り、何れも此心持を失はず、熟讀翫味するの上おのずから心も正敷、身も修り、政道の助にもならむ事を欲し、重て數語を以て是を後に附する而已。
溫知政要畢