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「ふむ! 奴は何故自殺なんかしたんだらう。忌まいましい。」
津木門七が首を縊つたといふ報せを受けた時,私の腦裡に瞬間こんな考が閃いた。
慥かに憎惡の故に違󠄁ひない。畜生! が併し、其の時私は酷󠄁く周章てゝ了つたことも事實である。前󠄁のやうな理念は、ほんの纔かの間、泛んだだけで、すぐ消󠄁滅してしまつたのである。私はどうしたものだらうと當惑した。が孰れにせよ、現場へ行かねばなるまい。で私は急󠄁いで部屋へ引き返󠄁した。「今何時頃だらう?」私はふとそんな事を考へた。消󠄁燈してからもう可成時間は經過󠄁してゐる。併し、私はそれが酷󠄁く氣懸りであつたにも拘らず、今時計を仰いで見る餘裕はない、と獨り
私は何も考へたくなかつた。しかし私の頭には、種々雜多な想念が無闇と湧きあがり、それらが