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燐寸に寄せて


貧しき燐寸賣りの

少女は

雪󠄁の夜にゆきくれて

とある窓のしたに

ふるへつつ

一本の燐寸もて

壁に擦りたれば

そのはつかなる

焰のもえつくさむ

ひまに

あはれに美しきもの

たぬしきもの

あまたある世界を

見たり

また一本の燐寸もて

壁に擦りたれば

また異なれる

たぬしき世界を見たり

かくして少女は

一本一本と

燐寸をすり、

そのたびにはかなき

美しき世界を

かいまみつゝ

心にしあはせにひたり

笑みうかべて

しにたるなり

いかに

われも詩を

つくるからは

かの貧しき少女が

ともせし燐寸のごとく

一つの詩には

全󠄁き美しき世界を

また次なる一つの詩には

また異なれる

美しき世界を

もたらさむには

燐寸のもゆるひまの

短かからむとも

一つ一つにたぬしき

美しき世界を

かいまみんには