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Page:NiimiNankichi-NurseryRhymes and Poems-2-DaiNipponTosho-1981.djvu/39

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ぶぶぶと翅ばたきながら

灯をしたつて來た蟲が

ふとんのへりにとまつた

鉛󠄁筆の削󠄁り屑のやうな

名もしらぬ小さい蟲だ

わたしはそれを手にとつて

見てゐたが

――惡魔󠄁がほんの瞬間

わたしの心を摑んだ

わたしは煙草をけた

その火で

蟲の頭をちよつとこがして見た

惡意󠄁でしたのではない

ほんのいたづら心だつた

だが蟲のよく動く觸角は

ぢぢといつてぽろりと落ち

八の字に翅をひらいてもがき出した

斷末魔󠄁のもがきだ


わたしは知つた もう再び

この巧な有󠄁機體はとばないことを

蟲は灰󠄁皿の上に落ち

六本の足で灰󠄁をさばいてゐる

どんなに苦しいだらう

わたしは恨――

一人の親友をうしなつたほどの

恨のなかで

蟲の苦悶を短かママくするため

煙草の火でその頭を抑へてやる

到底蟲は

鉛󠄁筆の削󠄁り屑に

ひとしくなつた


すべてのものの魂が

天國にかへるならば

この小さな蟲の魂は

今わたしの眼の前󠄁からのぼりはじめて

あの遠󠄁いところにとゞくまでに

どれほどながくかゝるだらう

小さい魂は小さいシヤボン玉のやう

そよ風にも流されながら

晝は陽にかやゞかき

夜は星のかげをやどして

ゆつくり、しかし正確に

樣のみもとにとゞくであらう


樣の前󠄁ではすべての魂が――

人間のも象のも馬のも牛のも

鳥のも魚のも蟲のも

同じやうにジヤステイスを求める

權利をもつだらうから

やがてこの蟲の魂は

樣のお前でいふだらう

「わたしを燒き殺したあの男を

フスのやうに焚殺して下さい」と

口をとがらせていふだらう

わたしは實に惡いことをした

わたしはほんたうに焚殺されても

致し方ない。