このページは検証済みです
線香花󠄁火
垣根のそばに
おちてゐる
線香花󠄁火の
もえのこり
ゆふべあの子と
ここに來て
ともして遊󠄁んだ
あの花󠄁火
夜なかに 雨が
ふつたのよ
色がにじんで
ぬれてゐる
學校にゆくみち
見て通󠄁る
何かかなしい
もえのこり
ゆふべ しらずに
ゐたけれど
垣根に茱〇 (くさかんむりに臾) も
咲󠄁いてゐる
臺臼のうた
春のひぐれに
藪のかげに
古い臺臼は朽ちてゆく
春のひぐれに
げんげ田も白くうらがれる頃に
古い臺臼は朽ちてゆく
爺さんも婆さんも死んでしまつた
その仲間はみんな死んだ
古い臺臼も朽ちてゆく
行燈ももうない
繪艸紙も 鳥目もない
古い臺臼も朽ちてゆく
古いものたちの
最後の一人よ、むしばまれ、おほらかに
古い臺臼は朽ちてゆく
夜がやつて來る
星がともり 蛙がころころうたひ
古い臺臼は朽ちてゆく
悲しみを訴へず
その仲間にかへつてゆくやうに
古い臺臼は朽ちてゆく