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體は灰󠄁色になり
石と見わけがつかない
私は彼の心も灰󠄁色だらうと思ふ
石に手をふれるとひい〔ママ〕やりと冷たいが
その冷たさは彼の手足と
彼の眼と彼の心の冷たさと
同じだと思ふ
わたしは日に何度も
この靜かな陰しつの場所󠄁に
訪ねて來て
雨蛙のすみかをのぞいて見る
槇の葉を押しわけて
顏を近󠄁づけても
細い金で緣どられた
彼の小さいか黝い眼に
わたしの顏が更に小さく映つても
彼は冷やかに石の一部分のやうに
うごかない
おいとわたしは聲をかけて見ても
小さな鼻孔を
依然ひくつかせてゐるだけだ
かうして見てゐると自然に
彼の心の冷たさと灰󠄁色が
私にもうつつて來て
わたしも石に吸ひよせられてゆく
わたしも雨蛙も石も
一つの心になる
わたし達󠄁はお互をあまりに理解し
もはや冷たささへ感じないのだ
そのとき
春といふのに春も何も超えた
松風の音󠄁が
わたし達󠄁の頭上に太古の歌を
うたふのをわたしたちは――
わたしも雨蛙も石も
しいんと聽くのだ
デージイ
小さいデージイが
咲󠄁いたのは
小さいひなたの
小さいはたけ
それは小さい花󠄁なので
小さい蜂と
小さい風が
お祝ひに來てゐる
小さい南京玉も
そこらにちかちかしてる
わたしはそこを通󠄁るとき
小さい彼等の
小さい仕合せを