32
精勤を樂み、怠惰の怖るべきを覺れる比丘は、退墮すること能はずして、涅槃に近づく。
(1) 涅槃の境をいふ。 (2) 煩惱を云ふ、是れ煩惱は衆生の心を纏ひ結びて生死海に流轉せしむるが故なり。
心品第三
33
躁ぎ、動き、護り難く、制へ難き心、智者は之を矯むること、箭匠の箭を〔矯むるが〕如くす。
34
陸に棄てられ、水中の家を離れたる魚の如く、此の心は躁ぐ、(1)魔王の領土を逃れ出んが爲に。
35
抑ふること難く、輕躁にして、隨處に欲を遂げんとする〔斯の如き〕心を御するは可なり、御したる心は樂を齎す。
36
見ること難く、微妙にして、隨處に欲を遂げんとする智者よ、〔斯の如きの〕心を護れ、護ある心は樂を齎す。
37
遠く行き、獨り動き、形なくして、胸に潛める、〔斯る〕心を制するものは魔の縛より脫れん。
38
心堅固ならず、妙法を了解せず、信念定まらざる人の智慧は成滿することなし。
39
心に貪染なく、心に迷惑なく、善惡〔の思〕を棄て、覺りたる人には怖畏あることなし。
40
此の身は水甁に似たりと知り、此の心を(3)都城の如くにし、智慧の武器を以て魔と戰ひ、勝ち獲たるものは之を護り、住止することなかれ。
41
げに此の身は久しからずして地に委せん、棄てられ、意識を喪ひ、無用の木の端の如くなりて。