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Page:Kokubun taikan 09 part2.djvu/319

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大かた生けるものを殺し、痛め鬪はしめて遊び樂まむ人は、畜生殘害のたぐひなり。よろづの鳥獸小き蟲までも、心をとゞめてありさまを見るに、子をおもひ親をなつかしくし、夫婦をともなひ、妬みいかり、欲おほく、身をあいし、命ををしめること、偏に愚痴なるゆゑに、人よりもまさりてはなはだし。かれにくるしみを與へ、命を奪はむこと、いかでかいたましからざらむ。すべて一切の有情をみて、慈悲の心なからむは人倫にあらず。

顏回は志人に勞を施さじとなり。すべて人を苦しめ物をしへたぐること、賤しき民の志を奪ふべからず。又いとけなき子をすかしおどし、言ひ辱かしめて興ずることあり。おとなしき人は、まことならねば事にもあらず思へど、幼き心には、身にしみておそろしく、耻かしくあさましきおもひ、誠に切なるべし。これをなやまして興ずること慈悲の心にあらず。おとなしき人の、喜び怒り、悲び樂むも、皆虛妄なれども、誰か實有の相に着せざる。身をやぶるよりも心をいたましむるは、人を害ふことなほはなはだし。病をうくる事も、多くは心よりうく、外より來る病はすくなし。藥を飮みて汗を求むるには、しるしなきことあれども、一旦耻ぢ恐るゝことあれば、かならず汗を流すは心のしわざなりといふことを知るべし。凌雲の額をかきて、白頭の人となりしためしなきにあらず。

ものにあらそはず、おのれを枉げて人にしたがひ、わが身を後にして人を先にするにはしかず。萬の遊にも勝負を好む人は、勝ちて興あらむためなり。己が藝のまさりたることをよろこぶ。されば〈三字イ無〉負けて興なくおぼゆべきことまた知られたり。我負けて人をよろこばしめむ