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のして、行幸にとゝのへひむさうすへ〈二字ぞくカ〉して來よ」とて、いでられぬ。よろこびにありきなどすれば、いとあはれにうれしき心ちす。それよりしも、例の愼むべき事あり。二日もか〈みかカ〉ごとになむきたるも、たよりにもあるを,さもやと思ふ〈程に夜いたくふけゆくゆゝしとおもふイ有〉人も、たゞ一人出で〈きイ有〉たり。胸うちつぶれてぞあさましき。「唯今なむ歸り給へる」など語れば、夜更けぬるに昔ながらの心ちならましかば、かゝらましやはと思ふ心ぞいみじき。それより後もおとなし。』しはすのついたちになりぬ。七日ばかりの晝さしのぞきたり。今はいとまばゆき心ちもしにたれば几帳引き寄せて、けしきものしげなるを見て、「いで日暮れにけり。內よ召しありつれば」とて立ちにしまゝに、おとづれもなくて、十七八日になりにけり。今日の晝つ方より、雨いといたうはらめに〈きイ〉て、霰につれづれと降る。まして若しやと思ふべき事も絕えにたり。いにしへを思へば我がめ〈心イ〉にしもあらじ、心の本上にやありけむ、雨風にもさはらぬものと、ならはしたりしものを、今日思ひ出づれば、昔も心のゆるぶやうにもなかりしかば、我が心のおほけなきにこそありけれ、あはれさらぬものと見しものを、それまで思ひかけられぬと、ながめ暮さる。雨の脚同じやうにて火燈す程〈に脫歟〉もなりぬ。南おもてにこの頃來る人あり。足音すればさにぞあなた〈るカ〉。あはれをかしく來たるはと、涌きたぎる心をば、傍に置きてうちいへば、年頃見知りたる人むかひて、「あはれこれにまさりたる雨風にもいにしへ、人の障り給はざめりし物を」といふにつけてぞうちこぼるゝ淚の熱くてかゝるに覺ゆるやう、
「思ひせは〈くカ〉胸のひむらはつれなくてなみだをわかす物にざりけり〈るカ〉。」