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び見れば目もたゝずかし。近う立てる屛風の繪などはいとめでたけれども見もやられず。人のかたちはをかしうこそあれ。にくげなる調度の中にも一つよき所のまもらるゝよ。みにくきもさこそはあらめと思ふこそわびしけれ。

     うれしきもの

まだ見ぬ物語の多かる。又一つを見ていみじうゆかしうおぼゆる物語の二つ見つけたる。心おとりするやうもありかし。人のやり捨てたる文を見るに同じつゞきあまた見つけたる。いかならむと夢を見て恐ろしと胸つぶるゝに、ことにもあらず合せなどしたるいとうれし。よき人の御前に人々あまた侍ふ折に、昔ありける事にもあれ、今聞しめし世にいひける事にもあれ、語らせ給ふを、我に御覽じ合せての給はせ、いひきかせ給へるいと嬉し。遠き所は更なり、同じ都の內ながら、身にやんごとなく思ふ人の惱むを聞きていかにいかにと覺束なく歎くに、をこたりたるせうそこ得たるもうれし。思ふ人の、人にも譽められ、やんごとなき人などの、□をしからぬものにおぼしのたまふものゝ折、もしは人と言ひかはしたる歌の聞えてほめられ、うちぎゝなどに譽めらるゝ、みづからのうへにはまだ知らぬ事なれど猶思ひやらるゝよ。いたううち解けたらぬ人のいひたるふるき事の知らぬを聞き出でたるもうれし。後に物のなかなどにて見つけたるはをかしう「唯これにこそありけれ」とかのいひたりし人ぞをかしき。みちのくに紙、白き色紙、たゞのも白う淸きは得たるもうれし。恥しき人の歌の本末問ひたるに、ふとおぼえたる我ながらうれし。常にはおぼゆる事も又人の問ふには淸く忘れ