Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/336

提供:Wikisource
このページは校正済みです

のぬしののぼりたるいとさわがし。近きほどに火出で來ぬといふ。されど燃えはつかざりける。物見はてゝ車のかへりさわぐほど。

     ないがしろなるもの

女官どもの髮あげたるすがた、からゑの革の帶のうしろ、ひじりのふるまひ。

     ことばなめげなるもの

宮のめのさいもんよむ人、舟こぐものども、かんなりの陣の舍人、すまひ。

     さかしきもの

今やうのみとせ子。ちごのいのりはらへなどする女ども、物の具こひ出でゝいのりの物どもつくるに、紙あまたおし重ねていと鈍き刀してきるさま、ひとへだに斷つべくも見えぬにさる物の具となりにければ、おのが口をさへ引きゆがめておし、切目おほかるものどもしてかけ、竹うち切りなどしていとかうがうしうしたてゝ、うちふるひ祈る事どもいとさかし。かつは何の宮のその殿の若君いみじうおはせしを、かいのごひたるやうにやめ奉りしかば、祿多く賜はりし事、その人々召したりけれど、しるしもなかりければ、今に女をなむ召す御德を見ることなど語るもをかし。げすの家の女あるじ、しれたるものそひしもをかし。まことにさかしき人をおしなどすべし。

     上達部は

春宮大夫、左右の大將、權大納言、權中納言、宰相中將、三位中將、東宮權大夫、侍從宰相。