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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/329

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れば、ひとの國の遠きにいきかくれなどして更に都のうちにさる者なかりけるに、中將なりける人の、いみじき、時の人にて心なども賢かりけるが、七十近き親二人をもたりけるが、かう四十をだに制あるにましていと恐ろしとおぢ騷ぐをいみじうけうある人にて、遠き所には更に住ませじ、一日に一度見ではえあるまじとて、みそかによるよる家の股の土を掘りてその內に屋を建てゝそれに籠めすゑていきつゝ見る。おほやけにも人にもうせ隱れたるよしを知らせてあり。などてか。家に入り居たらむ人をば知らでもおはせかし、うたてありける世にこそ。親は上達部などにやありけむ、中將など子にてもたりけむは。いと心かしこく萬の事知りたりければ、この中將若けれどざえありいたり賢くして時の人に思すなりけり。もろこしの御門この國のみかどをいかで謀りてこの國うち取らむとて常にこゝろみ、あらがひごとをしておくり給ひけるに、つやつやとまろに美くしげに削りたる木の二尺ばかりあるを「これがもと末いづ方ぞ」と問ひ奉りたるに、すべて知るべきやうなければ、みかどおぼしめし煩ひたるに、いとほしくて親の許に行きて「かうかうの事なむある」といへば「唯はやからむ川に立ちながら、橫ざまに役げ入れ見むに、かへりて流れむ方を末と記してつかはせ」と敎ふ。參りて我しり顏にして、「試み侍らむ」とて人々具して投げ入れたるに、さきにして行くかたにしるしをつけて遣したれば、まことにさなりけり。又二尺ばかりなるくちなはの同じやうなるを「これはいづれか男女」とて奉れり。又更に人え知らず。例の中將行きて問へば、「二つをならべて尾のかたに細きずわえをさしよせむに、尼はたらかさむをめと知れ」