コンテンツにスキップ

Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/321

提供:Wikisource
このページは校正済みです

たるに、その折の香のこりてかゝへたるもいみじうをかし。

よくたきしめたるたきものゝ昨日、をとゝひ、けふなどはうち忘れたるに、きぬを引きかづきたる中に、煙の殘りたるは今のよりもめでたし。

月のいとあかきに川を渡れば、牛の步むまゝに水晶などのわれたるやうに水のちりたるこそをかしけれ。

     おほきにてよきもの

法師、くだもの、家、餌囊、硯の墨。をのこの目、あまりほそきは女めきたり。又かなまりのやうならむはおそろし。火桶、ほゝつぎ、松の木、山吹〈櫻〉のはなびら。馬も牛もよきはおほきにこそあめれ。

     みじかくてありぬべきもの

とみの物ぬふ糸、燈臺。げす女の髮、うるはしくみじかくてありぬべし。人のむすめのこゑ。

     人の家につきづきしきもの

くりや、侍の曹司、はゝきのあたらしき、かけばん、わらはめ、はしたもの、ついたてさうじ、三尺の几帳、しやうぞくよくしたる餌囊、からかさ、かきいた、棚厨子、ひさげ、銚子、中のばん、わらふだ、ひぢをりたる廊、ちくあうゑかきたる火桶。

ものへいく道に淸げなるをのこのたてぶみのほそやかなる持ちて急ぎ行くこそいづちならむとおぼゆれ。又淸げなるわらはべなどの衵いとあざやかにはあらず、なえばみたるけいし