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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/304

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うげんべりの疊のふりてふし出できたる。唐繪の屛風の表そこなはれたる。藤のかゝりたる松の木枯れたる。ぢずりのもの花かへりたる。衞士の目くらき。几帳のかたびらのふりぬる。もかうのなくなりぬる。七尺のかづらのあかくなりたる。えびぞめの織物の灰かへりたる。色好みの老いくづほれたる。おもしろき家の木立やけたる、池などはさながらあれど、うきくさみくさしげりて。

     たのもしげなきもの

心みじかくて人忘れがちなる。むこの夜がれがちなる。六位の頭しろき。そらごとする人のさすがに人のことなしがほに大事うけたる。一番に勝つすぐろく。六七八十なる人の心ちあしうして日ごろになりぬる。風吹く〈早きイ〉に帆あげたる船。經は不斷經。

     近くてとほきもの

宮のほとりの祭り、思はぬはらからしんぞくの中、鞍馬のつゞらをりといふ道、しはすの晦日に正月一日のほど。

     遠くてちかきもの

極樂、舟の道、男女の中。

     井は

堀兼の井。走井は逢坂なるがをかしき。山の井、さしもあさきためしになりはじめけむ。飛鳥井、みもひも寒しと譽めたるこそをかしけれ。玉の井、少將井、櫻井、后町の井、千貫の井。