Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/302

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申しゝかば、いみじうわらはせ給ひて「さなむいふとて、なさじかし」など仰せられしもをかし。されどなり給ひにしかば誠にさうざうしかりしに、源中將劣らずと思ひてゆゑだちありくに、宰相中將の御うへをいひ出でゝ「いまだ三十のごにおよばずといふ詩をこと人には似ず、をかしうずし給ふ」などいへば「などかそれに劣らむ。まさりてこそせめ」とてよむに「更にわろくもあらず」といへば「わびしの事や。いかであれがやうにずんせで」などのたまふ。「三十のごといふ所なむすべていみじうあいぎやうづきたりし」などいへば、ねたがりて笑ひありくに、陣につき給へりける折に、わきて呼び出でゝ「かうなむいふ。猶そこ敎へ給へ」といひければ、笑ひて敎へけるも知らぬに、局のもとにていみじくよく似せてよむに、あやしくて「こはたぞ」と問へば、ゑみごゑになりて、「いみじき事聞えむ。かうかうきのふ陣につきたりしに、問ひ來てたちにたるなめり。誰ぞとにくからぬ氣色にて問ひ給へれば」といふもわざとさ習ひ給ひけむをかしければ、これだに聞けば出でゝ物などいふを「宰相の中將の德見る事そなたに向ひて拜むべし」などいふ。しもにありながらうへになどいはするに、「これをうち出づれば誠はあり」などいふ。おまへにかくなど申せば笑はせ給ふ。內の御ものいみなる日、右近のさうくわんみつなにとかやいふものして、たゝう紙に書きておこせたるを見れば「參ぜむとするを今日は御物忌にてなむ。三十のごにおよばずはいかゞ」といひたれば、かへりごとに、「そのごは過ぎぬらむ。朱買臣がめを敎へけむ年にはしも」と書きてやりたりしを、又ねたがりてうへの御前にも奏しければ、宮の御かたにわたらせ給ひて、「いかで