Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/248

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のみ、うへざうしわらはべどもいみじき色ふしと思ひたるいとことわりなり。やまあゐひかげなどやない箱にいれて、かうぶりしたるをのこもてありくいとをかしう見ゆ。殿上人の直衣ぬぎたれて扇やなにやと拍子にして「つかさまされどしきなみぞたつ」といふ歌をうたひて局どものまへわたる程はいみじくそひたちたらむ人の心騷ぎぬべしかし。ましてさと一度に笑ひなどしたるいとおそろし。行事の藏人のかいねりがさね、物よりことにきよらに見ゆ。しとねなど敷きたれどなかなかえものぼり居ず。女房の出でたるさま譽めそしり、このごろはことごとはなかめり。帳臺の夜、行事の藏人いときびしうもてなして「かいつくろひ二人、童より外は入るまじ」とおさへておもにくきまで言へば、殿上人など「猶これ一人ばかりは」などのたまふ。「うらやみあり。いかでか」などかたく言ふに、宮の御かたの女房二十人ばかり、おしこりてことごとしう言ひたる藏人なにともせず、戶をおしあけてさゝめきいれば、あきれて「いとこはすぢなき世かな」とて立てるもをかし。それにつきてぞかしづきどもゝ皆入るけしきいとねたげなり。うへもおはしましていとをかしと御覽じおはしますらむかし。わらは舞の夜はいとをかし。燈臺に向ひたる顏どもいとらうたげにをかしかりき。

むみやうといふ琵琶の御ことを、うへのもてわたらせ給へるを見などして、かきならしなどすと言へばひくにはあらず。緖などを手まさぐりにして「これが名よ、いかにとかや」など聞えさするに、唯いとはかなく名もなしとのたまはせたるは猶いとめでたくこそ覺えしか。

しげいしやなどわたり給ひて御物語のついでに「まろがもとにいとおかしげなるさうの笛