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やあらむ、いづれもをかし。

     草は

さうぶ、こも。あふひ、いとをかし。祭のをり神代よりしてさるかざしとなりけむ、いみじうめでたし。物のさまもいとをかし。おもだかも名のをかしきなり、心あがりしけむとおもふに。みくり、ひるむしろ、こけ、こだに、雪まの靑くさ〈わか草イ〉。かたばみ、あやのもんにても異物よりはをかし。あやふ草は、岸のひたひに生ふらむもげにたのもしげなくあはれなり。いつまで草は生ふる所いとはかなくあはれなり。岸のひたひよりもこれはくづれやすげなり。まことのいしばひなどにはえおひずやあらむと思ふぞわろき。ことなし草は思ふ事なきにやあらむと思ふもをかし。又あしき事を失ふにやといづれもをかし。しのぶ草いとあはれなり。屋のつま、さし出でたる物のつまなどにあながちに生ひ出でたるさまいとをかし。よもぎいとをかし。つばないとをかし。はまちの葉はましてをかし。まろこすげ、うきぐさ、あさぢ、あをつゞら、とくさといふ物は風に吹かれたらむ音こそいかならむと思ひやられてをかしけれ。なづな、ならしば、いとをかし。はすのうき葉のらうたげにてのどかに澄める池のおもてにおほきなるとちひさきとひろごりたゞよひてありくいとをかし。とりあげて物おしつけなどして見るもよにいみじうをかし。やへむぐら、やますげ、やまゐ、ひかげ、はまゆふ、あし。くずの、風に吹きかへされて裏のいとしろく見ゆるをかし。

     集は