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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/217

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殿上のなだいめんこそ猶をかしけれ。御前に人侍ふをりはやがて問ふもをかし。足音どもしてくづれ出づるを、うへの御局のひんがしおもてに耳おとなへて聞くに、知る人の名のりにはふと胸つぶるらむかし。又ありともよく聞かぬ人をもこの折に聞きつけたらむはいかゞ覺ゆらむ。名のりよしあし聞きにくゝ定むるもをかし。はてぬるなりと聞く程に、瀧口の弓ならし、くつの音そゝめき出づるに、藏人のいと高くふみこぼめかして、うしとらの隅の高棚にたかひざまづきとかやいふゐずまひに、御前のかたに向ひて、「うしろざまに、誰々が侍る」ととふ程こそをかしけれ。細う高う名のり、「まだ人々さふらはねばにや、なだいめん仕うまつらぬよし奏するもいかに」と問へば、さはる事ども申すに、さ聞きて歸るを、まさひろはきかずとて君達の敎へければ、いみじう腹だちしかりて、かんがへて瀧口にさへ笑はる。みづし所のお物棚といふものに沓おきて拂へ〈二字イ無〉いひのゝしるをいとほしがりて「たが沓にかあらむえ知らず」ととのもりつかさ人々のいひけるを「やゝまさひろがきたなき物ぞや」。とりに來てもいとさわがし。

若くて宜しきをのこの、げす女の名をいひなれて呼びたるこそいとにくけれ。知りながらも何とかやかたもじは覺えでいふはをかし。宮仕所の局などによりて、夜などぞさおぼめかむはあしかりぬべけれどとのもりづかさ、さらぬ所にてはさぶらひ、藏人所にあるものをゐて行きてよばせよかし、手づからは聲もしるきに。はしたものわらはべなどはされどよし。

わかき人とちごは肥えたるよし。ずりやうなどおとなだちたる人はふときいとよし。あまり