Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/210

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きらきらしう見えたるこそ賤しけれどもをかしけれ。なべての月ごろは露も見えぬものゝしはすのつごもりにしも時めきて、なきひとのくひ物にもしくにやと哀なるに、又よはひのぶる齒固めの具にもしてつかひためるは、いかなるにか。「紅葉せむ世や」といひたるもたのもし。柏木いとをかし。はもりの神のますらむもいとかしこし。兵衞の佐、ぞうなどをいふらむもをかし。すがたなけれどすろの木からめきてわろき家のものとは見えず。

     鳥は

ことゝころの物なれど鸚鵡いとあはれなり。人の言ふらむことをまねぶらむよ。杜鵑、水鷄、鴫、みこ鳥、ひわ、ひたき。山鳥は友を戀ひて鳴くに、鏡を見せたれば慰むらむ、いとあはれなり。谷へだてたる程などいと心ぐるし。つるはこちたきさまなれども、鳴く聲雲ゐまで聞ゆらむいとめでたし。かしら赤き雀、いかるがのをとり、たくみどり。鷺はいと見る目もみぐるし。まなこゐなどもうたて、よろずになつかしからねど、ゆるぎの森にひとりはねじと爭ふらむこそをかしけれ。はこどり。水鳥は、をしいとあはれなり。かたみ〈たがひイ〉に居かはりてはねのうへの露を拂ふらむなどいとをかし。都鳥、川千鳥は友まどはすらむこそ。かりの聲は遠く聞えたるあはれなり。鴨ははねの霜うちはらふらむと思ふにをかし。鶯はふみなどにもめでたきものに作り、聲よりはじめてさまかたちもさばかりあてに美くしきほどよりは、九重の內になかぬぞいとわろき。人の、さなむあるといひしを、さしもあらじと思ひしに、十年ばかり侍ひて聞きしに、まことに更におともせざりき。さるは竹も近く、紅梅もいとよく通ひぬ