Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/198

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よくかいたる女繪の詞をかしうつゞけておほかる。物見のかへさに乘りこぼれて、をのこどもいと多く牛よくやるものゝ車走らせたる。白く淸げなるみちのくがみにいとほそう書くべくはあらぬ筆して文書きたる。川舟のくだりざま。はぐろめのよくつきたる。てうばみにてう多くうちたる。うるはしき糸のねりあはせぐりしたる。物よくいふおんやうじして河原に出でゝすそのはらへしたる。よるねおきて飮む水。徒然なるをりにいとあまり睦しくはあらず、疎くもあらぬまらうどのきて、世の中の物がたりこの頃あることのをかしきもにくきも、怪しきも、これにかゝり、かれにかゝり、おほやけわたくしおぼつかなからず聞きよき程に語りたるいと心ゆくこゝちす。社寺などに詣でゝ物申さするに、寺には法師、社にてねぎなどやうのものゝ思ふ程よりも過ぎて、とゞこほりなく聞きよく申したる。びらうげはのどやかにやりたる。急ぎたるはかろかろしく見ゆ。網代は走らせたる。人の門より渡りたるをふと見る程もなく過ぎて、供の人ばかり走るを誰ならむと思ふこそをかしけれ。ゆるゆると久しく行けばいとわろし。牛はひたひいと小く白みたるが腹のまた足のしも尾のすそ白き。馬は紫の斑づきたる、蘆毛、いみじく黑きが足肩のわたりなどに白きところ、薄紅梅の毛にて髮尾などもいとしろき、げにゆふかみともいひつべき。牛飼は大きにて、かみあかしらがにて顏の赤みてかどかどしげなる。ざうしきずゐじんはほそやかなる。よきをのこも猶わかき程はさるかたなるぞよき。いたく肥えたるはねぶたからむ人とおもは〈おぼゆイ〉る。小舍人はちひさくて髮のうるはしきがすそさはらかに聲をかしうて、かしこまりて物などいひたるぞり