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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/171

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 「ほとゝぎす今ぞさわたる聲すなるわが吿げなくに人や聞くらむ」。

あやめ草、

 「菖蒲草今日のみぎはを尋ぬればねをしりてこそかたよりにけれ」。

螢、

 「五月雨やこぐらき宿の夕されはおもてるまでもてらすほたるか」。

とこなつ、

 「吹きにける枝なかりせばとこなつものどけき名をや殘さゞらまし」。

蚊遣火、

 「あやなしや宿の蚊やり火つけそめてかたらふ虫の聲をさけつる」。

蟬、

 「おくるといふ蟬の初聲聞くよりぞいまかと荻のあきを知りぬる」。

夏草、

 「こまやくる人や別くると待つほどに繁りのみます宿のなつくさ」。

戀、

 「思ひつゝ戀ひつゝはねじ〈つねにイ〉逢ふと見る夢を〈もイ〉さめてはくやしかりけり」。

いはひ、

 「數知らぬ眞砂にたづの程よりはちぎりそめけむ千代ぞすくなき」。