Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/157

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ふ。さてかの美々しうもてなすとありしことをおもひて、「いとまめやかには心一つにも侍らず。そゝのかし侍らむことは難き心ちなむある」と物すれば、「いかなることにか侍らむ。いかでこれをだにうけ給はらむ」とて、あまたたび責めらるれば、げにとも知らせむ、詞にいへば出でにくきをと思ひて、「御覽ぜさするにも、びなき心ちすれど、たゞこれ催し聞えむとの苦しきを見たまへとてなむ」とてかたはなつに〈二字るべきにイ〉そはやり〈るイ〉〈りイ有〉てさし出でたれば簀子にすべり出でゝ、おぼるなる月にあてゝ久しう見て入りぬ。「紙の色にさへまぎれて、更にえ見給へず。晝侍ひて見給へむ」とて、さしいれ〈つイ有〉。「〈はイ有〉や今はやりてむ」といへば「猶しばしやらせ給はむ」などいひて、これなることほのかにも見たり顏にもいはで、たゞ「こゝにわづらひ侍りし程の力なれば愼むべき物なり」と人もいへば、「心細う物の覺え侍る事」とて、をりをりにそのことゝも聞えぬ程に、しのびてうちずて〈一字イ無〉することぞある。「つとめてつかさに物すべきこと侍るも〈二字れはイ〉佐の君に聞えにやりてさふらはむ」とて、立ちぬ。う〈よイ〉べ見せし文、枕上にあるを見れば、われ〈がイ〉やると思ひしところはことにて、又やれたる所あるはあやしと〈さイ〉に思はくの返り事せしに、いかなる駒かとありし事のとかく書き付けたりしを、やりとりと〈たイ〉るなべし。まだしきに、すけのもとに「みだり風起りてなむ聞えしやうにはえ參らぬ。こゝに午時ばかりにおはしませ」とあり。例の何事にもあらじとて物せぬ程に文あり。それには「例よりもいそぎ聞えさせむとしつるを、いとつゝみ思ひ給ふることありてなむ。よべの御文をわりなく見給へ難くてなむ。わざと聞えさせ給はむ事こそ難からめ。をりをりには、よろしかべ