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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/149

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といひがてら暮にものしたり。「いかゞはせむ」とて格子二まばかりあげて、簀子に火ともして、廂にものしたり。佐たいめして早くとてえんにのぼりぬ。妻戶を引きあけて、「これより」といふめれば、あゆみ寄るもの、又立ちのきて、「まづ御せうそこ聞えさせ給へかし」と、忍びやかにいふなれば、入りてさなむと物するに「思しか〈よイ〉らむ所に聞えよかし」など人は〈二字いへばイ〉、少しうち笑ひて、よき程にうちそよめきて入りぬ。佐と物語忍びやかにして、さくら〈らイ無〉に扇のうちあたる音ばかり、時々してゐたり。內に音なうてやゝ久しければ、「佐に一日かひなくてまかでにしかば、心もとなきになむと聞え給へ」とて入れたり。「早う」といへば、ゐざりよりてあれど、とみに物もいはず。內よりはた、まして昔なし。とばかりありて「覺束なうおん〈もイ〉ふみにやあらむ」とて、いさゝかしはぶきの氣色したるにつけて「時しもあれ、惡しかりける折に侍ひあひ侍りて」といふを初めにて、思ひはじめけるよりの事いと多かり。內には唯いとまがまがしき程なれば「かうのたまふも、夢の心ちなむする。ちひさきよりも、世にいふなる鼠追ひの程にだにあらぬを、いとわりなき事になむ」などやうに〈こ脫歟〉たふ。聲いたうつくろひたなりと聞けば、我もいと苦し。雨うち亂る暮れにて、蛙の聲いと高し。夜更け行けば內より、「いとかくむくつけゞなるあたりは內なる人だにしづ心なく侍るを」といひ出したれば、「何か、これよりまろと思ひ給へ。むか〈か衍歟〉しは怖ろしきこと侍らじ」といひつゝ、いたう更けぬれば「佐の君の御いにき〈二字もひイ〉も近うなりにたらむを、その程の雜役をだに仕うまつらむ。殿にかうなむ仰せられしと、御けしき給はりて、又のたまはせむ事聞えさせに、あすあさての