Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/132

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いとほしきこと」などある程に、〈とイ有〉ばかりになりぬれば、とりもなきぬと聞く聞く寢にければ、ことしも心ちよげならむやうに、あさいになりにけり。今もとふ人あまたのゝしればせ〈とイ〉て、名に〈二字おきイ〉ても〈のイ有〉〈たりイ有〉。騷しうぞなりまさらむとて急がれぬ。暫しありて、男の着るべき物どもなど數あまたあり。「取りあへたるに從ひてなむ。かみにまづ」とてありける。「かく集まりたる人に物せよ」とて、急ぎけるは、俄にひはだの杉色めぐしたり。いとあやしければ見ざりき。物問ひなどすれば、三人ばかりやまひごと口ぜちなどいひたり。廿日はさて暮れぬ。一日の日より四日、例の物忌と聞く。こゝにつどひたりし人々は、南ふたがる年なれば、しばしもあらじかし。かく〈て脫歟〉廿〈五イ〉日あがたありきの所へ皆わたられにたり。こゝろもとなきことはあらじかしと思ふに、我が心そ〈うイ〉きぞまづ覺えけむかし。かくのみうく覺ゆる身なれば、この命をゆめばかり惜しからずおぼゆる。このそみ〈四字ものいみイ〉どもは、柱に押し付けてなど見ゆるこそ、もしも惜しからむ身のやうなりければ、その二十五日に、物忌なり果つるよしも、かどの音すれば、「かうてなむ固うさしたる」とものすれば、たうるゝ〈四字とほきイ〉方に立ちかへり〈るイ〉音す。又の日は例の方ふたがると、しかじか。晝間にみそ〈二字なりイ〉て御さ〈だイ〉いまつ〈一字ゐるイ〉といふ程にぞ〈いイ有〉て歸る。それより例のさはりなど聞えつゝ日經ぬ。こゝに物忌繁くて、四月は十よ日になりたれば、世には祭とてのゝしるなり。人、忍びてとさそへば、みそぎよりはじめて見る。わたくしみてぐら奉らむとてまうでたれば、一條のおほきおとゞ〈伊尹〉まうであひ給へり。いといかめしうのゝしるなどいへばさらなり。さし步みなどし給へるさま、いたう似給へるかなと思ふに、大