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今鏡


今鏡第一

    すべらぎの上

やよひの十日あまりの頃、同じ心なる友だちあまたいざなひて、はつせに詣で侍りしついでに、よきたよりに寺めぐりせむとて大和のかたに旅ありき日ごろするに、路遠くて日もあつければ、木かげに立ちよりて休むとてむれゐる程に、みづはさしたる女の杖にかゝりたるがめのわらはの花がたみにわらび折りいれてひぢにかけたるひとり具して、その木のもとにいたりぬ。「「遠き程にはあらねど苦しくなりて侍れば、おはしあへる所はゞからしけれど、都のかたよりものし給ふや。むかし戀しければ、しばしもなづさひたてまつらむ」」といふけしきも、口すげみわなゝくやうなれど、年よりたるほどよりも、昔おぼえてにくげもせず。「「此のわたりにおはするにや」」など問へば「「もとは都に百とせあまり侍りて、その後山城の狛のわたりにいそぢばかり侍りき。さて後おもひもかけぬ草のゆかりに、春日野わたりに住み侍るなり。すみかのとなりかくなりし侍るも、あはれに」」といふに、年の積り聞く程に、みな驚きてあさましくなりぬ。「昔だにさほどの齡はあり難きに、いかなる人にかおはすらむ。誠ならばあり難き人見たてまつりつ」」といへば、うち笑ひて「「つくも髮はまだおろし侍らねど、ほ