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はさらにもあらずや。又の日、今日は御佛など近くて拜み奉らむ、ものどもとりおかれぬ先にと思ひて、參りて侍りしに、宮たちの諸堂拜み奉らせ給ひし見申し侍りしこそ、かゝる事にあはむとて今まで生きたるなりけりと覺え侍りしか。物覺えて後、さる事をこそまだ見侍らね。御てぐるまに四所奉りしぞかし。口に大宮、皇太后宮、御袖ばかりをいさゝかさし出でさせ給ひて侍りしに、枇杷殿の宮の御ぐしの土にいと長くひかれさせ給ひていでさせ給へりしは、いと珍らかなりし事かな。しりの方には中宮、かんの殿奉りて、唯御身ばかり御車におはしますやうにて、御ぞども皆ながらいでゝ、それも土までこそ引かれ侍りしか。一品の宮も中に奉りたりけるにや、御ぞどもはなにがしのぬしのもち給ひて御車のしりにぞさふらはれし。ひとへの御ぞばかりを奉りておはしますなめり。御車はまうち君達ひかれて、しりには關白殿をはじめ奉り、殿ばらさらぬ上達部殿上人、おほん直衣にて步みつかせ給へりし。いであないみじや。中宮權大夫殿のみぞ堅固の物忌にてまゐらせ給はざりし。さていみじく口をしがらせ給ひける。中宮の御裝束は權大夫殿せさせ給へりし。いと淸らにてこそ見え侍りしか。供養の日啓すべき事ありて、おはします所に參りて、いつところ居並ばせ給へりしを見奉りしかば「中宮の御ぞの優に見えしは我がしたればにや」とこそ大夫殿おほせられけれ。かく口ばかりさかしうたち侍れど、下﨟のつたなき事は、いづれの御ぞもほどへぬれば色どものふつと忘れ侍りにけるよ。殊にめでたくせさせ給へりければにや、下はくれなゐうす物の御ひとへがさねにや、御うはぎよくも覺え候はず。萩の織物の三重がさねの御唐