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衣に秋の野を縫ひものし、繪にも書かれたる綾とぞ目もおどろきて見給へし。こと宮々のも殿ばらの調じて奉らせ給へりけるとぞ人申しゝ。大宮は二重織物おり重ねられて侍りし。皇太后は總じてから裝束、かんの殿のは殿よりこそはせさせ給へりしか。こと御方々のもゑかきなどせられたりと聞かせ給ひて、俄にはくおしなどせられたりければ、入道殿御らんじて、「よき咒師の裝束かな」とわらひ申させ給ひけり。殿はまづ御堂御堂あけつゝ待ち申させたまふ。南大門のほどにて見申すだにゑましくおぼえ侍りしに御堂渡殿のはざまより、一品の宮の辨の乳母、今一人はそれも一品の宮の大夫、輔の乳母、中將の乳母とかや、三人とぞ承りし。御くるまよりおりさせ給ひてゐざりつゝかけ給ひつるを見奉り給へるぞかし。おそろしさにわなゝかれしかど、今日さばかりの事はありなむやとおもひて見まゐらするに、などてかはとて申しながら、いづれ聞えさすべくもなくとりどりにめでたくおはしまさふ。大宮の御ぐし御ぞの裾にあまらせ給へりし。中宮は御たけに少し餘らせ給ふにや。御扇をいと近くさしかくしておはします。皇太后宮は御ぞのすそに一尺ばかり餘らせ給へる御裾扇のやうにぞ。かんの殿、御たけに七八寸あまらせ給へり。皇太后宮は御扇少しのけてさしかくさせ給へりける。一品宮は「殿の御前なにかゐさう〈うイ無〉せ給ふ。立たせ給へ」とて長押のせり昇らせ給ふ御手をとらへつゝ、たすけ申させたまふ。あまりあまりなる事は目もおどろく心ちなむし給ひける。あらはならず引きふたぎなどつくろはせ給ひける程に、御覽じつけられたるものかは。あないみじ、宮づかへに宿世のつくる日なりけりと、生けるこゝちもせで三人な