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とこそ人申すめれ。いかにまたさまざまおはしまさひてめでたく侍らむずらむ。大かた又世になき事なり。大臣の御むすめ三人、后にてさしならべ奉らせ給ふ事、あさましくけうのことなり。もろこしには昔三千人の后おはしけれど、それはすぢも尋ねでたゞかたちありと聞ゆるを隣の國までえらびいだして、その中に楊貴妃ごときはあまり時めき過ぎて悲しき事あり。王昭君はえびすの王にたまはりて胡の國の人となり、上陽人は楊貴妃にそばめられて御門に見え奉らで、春のゆき秋のすぐることをも知らずして、十六にて參りて六十までありけり。かやうなれば三千人のかひなし。我が國にはなゝ后こそおはすべけれど代々に四人ぞたてたまふ。この入道殿下のひとつかどばかりこそは、太皇太后宮、皇太后宮、中宮、三所出でおはしたれ。誠に希有希有の御さいはひなり。皇后宮一人のみこそはすぢ別れ給へりといへども、それも貞信公の御末におはしませば、それよそ人とおもひ申すべきことかは。しかあれば唯世の中はこの殿の御光ならずといふことなし。この春こそはうせ給ひにしかば、いとゞ唯三人の后のみこそは世におはしますめれ。この殿ことにふれて遊ばせる詩和歌など居易や赤人、人麿、躬恆、貫之といふともなどえ思ひよらざりけむとこそおぼえ侍れ。春日の行幸は、さきの一條院の御時よりはじまれるぞかし。それにまた當代をさなくおはしませども必ずあるべきことにて、はじまりたる例になりにたれば、大宮御輿にそひ申させ給ひておはします。めでたしなどいふも世のつねならず、時の御おほぢにてうちそひ仕うまつらせ給ふ。殿の御ありさま御かたちなど少し世の常にもおはしまさましかば、飽かぬことにや、そ