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あへ侍らぬや。內にはおぼしそめてし事どもをむげにやはとて中納言にぞつけさせ給ひてける。そのころの右大將やまひして辭し給ひけるを、この中納言に御賀の程よろこびくはへむとおぼし召して俄になさせ給ひつ。院も喜び聞えさせ給ふものから「いとかく俄にあまるよろこびをなむいちはやき心地し侍る」と卑下し申し給ふ。丑寅の町に御しつらひ設け給ひてかくろへたるやうにしなし給へれど、今は猶かたことに儀式まさりて所々の饗などもくらづかさごくそうゐんより仕うまつらせ給へり。とんじきなどおほやけざまにて頭中將宣旨承りて御子達五人、左右のおとゞ大納言二人、中納言三人、宰相五人、殿上人は例の、內、春宮、院殘りすくなし。おまし御調度どもなどはおほきおとゞ委しくうけ給はりて仕うまつらせ給へり。今日は御事ありてわたり參り給へり。院もいとかしこく驚き申し給ひて御ざにつき給ひぬ。もやのおましに向へておとゞの御ざあり、いと淸らにものものしくふとりてこのおとゞぞ今さかりのしうとくとは見え給へる。あるじの院は猶いと若き源氏の君に見え給ふ。御屛風四帖に內の御手書かせ給へるからの綾のうすだんにしたゑのさまなどおろかならむやは。おもしろき春秋のつくりゑなどよりもこの御屛風の墨つきの輝くさまは目も及ばず、思ひなしさへめでたくなむありける。置物の御厨子ひきものふきものなど藏人所よりたまはり給へり。大將の御いきほひもいといかめしくなり給ひにたれば打ち添へて今日の作法いとことなり。御馬四十疋左右のうまづかさ六衞府の官人かみより次々にひきとゝのふる程日暮れはてぬ。例の萬歲樂賀皇恩などいふ舞氣色ばかり舞ひておとゞの渡り給へ