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奉りて次々はまして參り給はぬ人なし。舞臺の左うに樂人のひらばりうちてにしひんがしにとんじき八十ぐ、祿の唐櫃四十續けて立てたり。未の時ばかりに樂人まゐる。萬歲樂皇麞など舞ひて日暮れかゝるほどに、高麗のらんじやうして落蹲の舞ひ出でたるほど、猶常のめなれぬ舞のさまなれば舞ひはつる程に權中納言衞門督おりていりあやをほのかに舞ひて紅葉のかげに入りぬる名殘飽かず興ありと人々おぼしたり。いにしへの朱雀院の行幸に靑海波のいみじかりし夕思ひ出で給ふ人々は權中納言衞門督の又劣らず立ち續き給ひにける、世々のおぼえありさまかたち用意などもをさをさ劣らず、つかさくらゐはやゝ進みてさへこそなどよはひの程をも數へて猶さるべきにて昔よりかくたち續きたる御なからひなりけりとめでたく思ふ。あるじの院も哀に淚ぐましくおぼし出てらるゝことども多かり。夜に入りて樂人ども罷り出づ。北のまんどころの別當ども人々ひきゐて祿の唐櫃によりてひとつゞつ取りてつぎつぎたまふ。白きものどもを品々かづきて山ぎはより池のつゝみ過ぐる程のよそめは千年をかねてあそぶ鶴の毛衣に思ひまがへらる。御遊始まりてまたおもしろし。御ことどもは春宮よりぞとゝのへさせ給ひける。朱雀院より渡り參れる琵琶きん、內より賜はり給へる箏の御琴など皆昔覺えたる物のねどもにて珍しく彈き合せ給へるに、何の折にも過ぎにし方の御有樣うちわたりなどおぼし出でらる。故入道の宮おはせましかばかゝる御賀など我こそ進み仕うまつらましか、何事につけてかは志をも見え奉りけむと飽かず口惜しくのみ思ひ出で聞え給ふ。內にも故宮のおはしまさぬことを、何事にもはえなくさうざ