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の氣色ばかり昔に變らでいといたうあれまさるをつれづれとながめ給ふ。けいしなどもむねむねしき人もなかりければとりつくろふ人もなきまゝに、草靑やかにしげり軒のしのぶぞ所えがほに靑み渡れる。折々につけたる花紅葉の色をも香をも同じ心にみはやし給ひしにこそ慰むことも多かりけれ、いとゞしくさびしくよりつかむ方なきまゝに、持佛の御飾ばかりをわざとせさせ給ひて明暮行ひ給ふ。かゝるほだしどもにかゝづらふだに思の外に口をしう、我が心ながらもかなはざりけるちぎりと覺ゆるを、まいて何にか世の人めいて今さらにとのみ、年月にそへて世の中をおぼし離れつゝ、心ばかりはひじりになりはて給ひて故君のうせ給ひしこなたは例の人のさまなる心ばへなど戯ぶれにてもおぼし出で給はざりけり。「などかさしも別るゝ程のかなしびは又世にたぐひなきやうにのみこそは覺ゆべかめれど、ありふればさのみやは。猶世の人になずらふ御心づかひをし給ひて、見苦しくたづきなき宮の內もおのづからもてなさるゝわざもや」と、人はもどき聞えて何くれとつきづきしく聞えごつことも類に觸れておほかれど聞し召し入れざりけり。御ねんずのひまひまにはこの君達をもてあそび、やうやうおよすげ給へば琴ならはし、碁うちへんつぎなどはかなき遊びわざにつけても、心ばへどもを見奉り給ふに、姬君はらうらうしく深くおもりかに見え給ふ。若君はおほどかにらうたげなるさまして物づゝみしたるけはひいとうつくしうさまざまに坐す。春のうらゝかなる日影に池の水鳥どもの羽根うちかはしつゝおのがじゝさへづる聲などを常ははかなき事と見給ひしかどもつがひ離れぬを羨しくながめ給ひて君達に