Page:Kokubun taikan 02.pdf/304

提供:Wikisource
このページは校正済みです

ろ頭中將ときこゆる。年よはひのほどはかたはならねど人におくるとなげき給へり。宰相はとかくつきづきしく。


橋姬

その頃世にかずまへられ給はぬふる宮おはしけり。母方などもやんごとなくものし給ひてすぢことなるべきおぼえなどおはしけるを、時移りて世の中にはしたなめられ給ひけるまぎれに、なかなかいと名殘なく御後見なども物うらめしき心々にて、かたがたにつけて世を背きさりつゝ、おほやけわたくしにより所なくさしはなたれ給へるやうなり。北の方も昔の大臣の御むすめなりける。哀に心ぼそく親たちのおぼしおきてたりしさまなど思ひ出で給ふに、たとしへなきこと多かれど、深き御契のふたつなきばかりをうき世のなぐさめにて、かたみにまたなく賴みかはし給へり。年比經るに御子もものし給はで心もとなかりければ、さうざうしくつれづれなるなぐさめに、いかでをかしからむちごもがなと、宮ぞ時々おぼしのたまひけるに、珍しく女君のいと美しげなる生れ給へり。これをかぎりなく哀と思ひかしづき聞え給ふに、又さしつゞき氣色ばみ給ひてこのたびは男にてもなどおぼしたるに同じさまにてたひらかにはし給ひながらいといたく煩ひてうせ給ひぬ。宮あさましくおぼし惑ふ。ありふるにつけていとはしたなく堪へがたきこと多かる世なれど、見捨てがたく哀なる人の