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ありしにかはらず、なかなかいたはしくやんごとなくもてなし聞ゆるさまをまし給ふ。氣近くうち語らひ聞え給ふさまはいとこよなく御心隔たりてかたはらいたければ、人目ばかりをめやすくもてなしておぼしのみ亂るゝに、この御心のうちしもぞ苦しかりける。さること見きともあらはし聞え給はぬに、みづからいとわりなくおぼしたるさまも心をさなし。いとかくおはするけぞかし。よきやうといひながらあまり心もとなく後れたる賴もしげなきわざなりとおぼすに、世の中なべてうしろめたく女御のあまりやはらかにおびれ給へるこそ、かやうに心かけ聞えむ人はまして心亂れなむかし。女はかうはるけ所なくなよびたるを人もあなづらはしきにや、さるまじきにふと目とまり心强からぬあやまちはし出づるなりけりとおぼす。右のおとゞの北の方の取り立てたるうしろみもなく幼くより物はかなきよにさすらふるやうにて生ひ出で給ひけれど、かどかどしくらうありて我も大方にはおやめきしかど、にくき心のそはぬにしもあらざりしをなだらかにつれなくもなしてすぐし、このおとゞのさるむしんの女房に心合せて入り來たりけむにもけざやかにもて離れたるさまを人にも見え知られ、殊更に許されたる有樣にしなして我が心と罪あるにはなさずなりにしなど、今思へばいかにかどあることなりけり、契り深き中なりければ長くかくてたもたむことはとてもかくても同じことあらましものから心もてありしことゞも世の人も思ひ出でば少しかるがるしき思ひ加はりなまし、いといたくもてなしてしわざなりとおぼし出づ。二條のないしのかんの君をば猶絕えず思ひ出で聞え給へど、かくうしろめたきすぢのことうきも