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たり給ひて、人やりならず心苦しう思ひやり聞え給ふにやとおぼして「心地はよろしくなりにて侍るを、かの宮の惱しげにおはすらむに疾く渡り給ひにしこそいとほしけれ」と聞え給へば「さかし。例ならず見え給ひしかど異なる心地にもおはせねばおのづから心のどかに思ひてなむ。內よりは度々御使ありけり。今日も御文ありつとか。かの院のいとやんごとなく聞えつけ給へれば上もかくおぼしたるなるべし。少しおろかになどもあらむは、こなたかなたおぼさむことのいとほしきぞや」とてうめき給へば「內の聞し召さむよりもみづからうらめしと思ひ聞え給はむこそは心苦しからめ。われはおぼし咎めずともよからぬさまに聞えなす人々必ずあらむと思へば、いと苦しくなむ」などのたまへば、「實にあながちに思ふ人のためには煩はしきよすがなれど、萬にたどり深きこととやかくやとおほよそ人の思はむ心さへ思ひめぐらさるゝを、これはたゞ國王の御心やおき給はむとばかりを、はゞからむは淺き心地ぞしける」とほゝゑみてのたまひまぎらはす。「渡り給はむことは諸共にかへりてを、心のどかにあらむ」とのみ聞え給ふを「こゝには暫し心安くて侍らむ。まづ渡り給ひて人の御心も慰みなむ程にを」と聞えかはし給ふ程に日ごろ經ぬ。姬宮はかく渡り給はぬ日比のふるも人の御つらさにのみおぼすを、今は我が御をこたりうちまぜてかくなりぬるとおぼすに、院も聞し召しつけていかにおぼし召さむと世の中つゝましくなむ。かの人もいみじげにのみいひわたれども小侍從も煩はしく思ひ歎きて「かゝることなむありし」と吿げてければいとあさましくいつの程にさること出できけむ、かゝることはありふればおのづから氣色に