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Page:Kokubun taikan 01.pdf/92

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司など用意殊にしてさる心ばへ見すなれど更にうけひかず。我が身のかくいたづらに沈めるだにあるをこの人一人にこそあれ、思ふさまことなり、若し我に後れてその志遂げずこの思ひ置きつる宿世違はゞ海に入りねと常に遺言し置きて侍る」などきこゆれば、君もをかしと聞き給ふ。人々「海龍王の后になるべきいつきむすめなゝり。心高さ苦しや」とて笑ふ。かくいふは播磨の守の子の藏人より今年かうぶり得たるなりけり。「いとすきたるものなればかの入道の遺言破りつべき心はあらむかし。さて佇みよるな〈二字なるイ〉らむ」といひあへり。「いでやさいふとも田舍びたらむ、をさなくよりさる所に生ひ出でゝふるめいたる親にのみ從ひたらむは、母こそゆゑあるべけれ。善きわかうどわらはなど都のやんごとなき所々よりるゐにふれて尋ねとりてまばゆくこそもてなすなれ。なさけなき人になりゆかばさて心安くてしもえおきたらじをや」などいふもあり。君は「何心ありて海の底まで深う思ひ入るらむ。底のみるめもものむつかしう」などの給ひてたゞならず思ほしたり。かやうにてもなべてならずもて僻みたる事好み給ふ御心なれば御耳とゞまらむやと見奉る。「暮れかゝりぬれどおこらせ給はずなりぬるにこそはあめれ。はや歸らせ給ひなむ」とあるを、大とこ「御ものゝけなど加はれるさまにおはしましけるを今宵はなほ靜に加持など參りて出でさせ給へ」と申す。「さもある事」と皆人まうす。君もかゝる旅寢もならひ給はねばさすがにをかしくて「さらば曉に」との給ふ。日もいと長きにつれづれなれば夕暮のいたう霞みたるに紛れてかの小柴垣のもとに立ち出で給ふ。人々はかへし給ひて惟光ばかり御供にて覗き給へば唯この西おも