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Page:Kokubun taikan 01.pdf/69

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ず。いと怪しう目ざましき音なひとのみ聞き給ふ。くだくだしき事のみ多かり。白妙の衣うつ砧の音もかすかにこなたかなた聞きわたされ、空飛ぶ雁の聲取り集めて忍びがたき事多かり。はし近きおましどころなりければ遣戶を引きあけ給ひて諸共に見出し給ふ。程なき庭にざれたる吳竹、前栽の露は猶かゝる所も同じごときらめきたり。蟲の聲々みだりがはしく、壁の中の蟋蟀だにまどほに聞きならひ給へる御耳にさしあてたるやうに鳴き亂るゝを、なかなかさまかへて覺さるゝも御志一つの淺からぬに萬の罪免さるゝなめりかし。しろきあはせうすいろのなよゝかなるを重ねて華やかならぬ姿いとらうたげにあえかなる心地して、そこと取り立てゝ優れたる事もなけれど、ほそやかにたをたをとして物うち言ひたるけはひ、あな心苦しとたゞいとらうたく見ゆ。心ばみたる方を少し添へたらばと見給へながらなほうちとけて見まほしく覺さるれば、「いざたゞこのわたり近き所に心安くてあかさむ。かくてのみはいと苦しかりけり」との給へば、「いかでか俄ならむ」といと老らかにいひて居たり。この世のみならぬ契などまでたのめ給ふに、うち解くる心ばへなど怪しくやうかはりて世馴れたる人とも覺えねば、人の思はむ所もえ憚り給はで右近を召し出でゝ隨身を召させ給ひて御車引き入れさせ給ふ。このある人々もかゝる御志のおろかならぬを見知れば、おぼめかしながら賴みをかけ聞えたり。あけがたも近うなりにけり。とりの聲などきこえて、みたけさうじにやあらむ、唯翁びたる聲にぬかづくぞ聞ゆる。たちゐのけはひ堪へがたげに行ふ。いとあはれに朝の露に異ならぬ世を何をむさぼる身のいのりにかと聞え給ふに、「な