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せばやと願ひ、若しはくち惜しからずと思ふいもうとなどもたる人は賤しきにても猶この御あたりに侍はせむと思ひよらぬはなかりけり。ましてさりぬべき序の御言の葉も懷かしき御氣色を見奉る人の少し物の心を思ひ知るはいかゞはおろかに思ひきこえむ。明暮うち解けてしもおはせぬを心もとなき事に思ふべかめり。まことやかの惟光があづかりのかいまみはいとよくあない見取りて申す。「その人とは更におもひより侍らす。人にいみじく隱れ忍ぶる氣色になむ見えはべるを、つれづれなるまゝに南のはじとみあるながやにわたり來つゝ車の音すれば若き者ども覗きなどすべかめるに、このしうとおぼしきもはひわたる時はべ〈る脫歟〉める。かたちなむほのかなれどいとらうたげに侍る。ひと日さきおひてわたる車の侍りしをのぞきてわらはべの急ぎ來て、右近の君こそまづ物見給へ、中將殿こそこれより渡り給ひぬれといへば、またよろしきおとな出で來て、あなかまと手かくものから、いかでさはしるぞ、いで見むとてはひわたる。打橋だつものを路にてなむ通ひ侍る。急ぎくるものはきぬの据を物に引きかけてよろぼひ倒れて、橋よりも落ちぬべければ、いでこのかづらきの神こそさかしうし置きたれとむつがりて、もののぞきの心もさめぬめり。君は御なほし姿にて御隨身共もありし、なにがしくれがしと數へしは、頭中將の隨身その小舍人わらはをなむしるしにいひ侍りし」など聞ゆれば、「たしかにその車を見まし」とのたまひて、もしかの哀れに忘れざりし人にやと思ほしよるもいと知らまほしげなる御氣色を見て「私のけさうもいとよくしおきて、あないも殘る所なく見給へ置きながら、唯我れどちと知らせて物などいふ