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Page:Kokubun taikan 01.pdf/575

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もさるべきものどもおぼしはからひて尋ねて書かせ給ふ。この御箱には立ちくだれるをばまぜ給はず。わざと人の程しなわかせ給ひつゝ草子卷物皆かゝせ奉り、萬に珍らかなる御寶ものども、ひとのみかどまでありがたげなる中に、この本どもなむゆかしと心動き給ふ若人世に多かりける。御繪どもとゝのへさせ給ふ中にかの須磨の日記は末にも傳へ知らせむとおぼせど今少し世をも思ししりなむにとおぼしかへして又とり出で給はず。內のおとゞはこの御いそぎを人の上にて聞き給ふもいみじう心もとなくさうざうしとおぼす。

姬君の御有樣盛にとゝのひてあたらしう美くしげなり。つれづれとうちしめり給へる程いみじき御歎きぐさなるに、かの人の御氣色はた同じやうになだらかなれば、心弱く進みよらむも人笑はれに人のねんごろなりしきざみに靡きなましかばなど人しれずおぼし歎きて、一方に罪をもえおほせ給はず。かく少したはみ給へる御氣色を宰相の君は聞き給へど、暫しつらかりし御心を憂しと思へばつれなくもてなししづめて、さすがに外ざまの心はつかふべくもおぼえず。心づから戯ぶれにくき折多かれどあさみどり聞えごちし御めのとどもに、なうごんにのぼりて見えむの御心深かるべし。おとゞはあやしく浮きたるさまかなと覺し惱みて「かのわたりの事思ひ絕えにたらば、右のおとゞ、中務の宮などの氣色ばみいはせ給ふめるをいづくも思ひ定められよ」とのたまへど物も聞え給はず、畏まりたるさまにて侍ひ給ふ。「かやうの事はかしこき御敎にだに隨ふべくも覺えざりしかばことまぜまうけれども、今思ひあはするにはかの御敎こそ長きためしにはありけれ。つれづれとものすれば思ふ心あるにや