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Page:Kokubun taikan 01.pdf/567

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ゝさまかな」とて御目とめ給へるに、

 「花の香はちりにし枝にとまらねどうつらむ袖にあさくしまめや」。ほのかなるを御覽じつけて、宮はことごとしうずじ給ふ。宰相の中將、御使尋ねとゞめさせ給ひていたうゑはし給ふ。紅梅襲の唐の細長そへたる女のさうぞくかづけ給ふ。御返りもその色の紙にておまへの花を折らせてつけさせ給ふ。宮「うちの事思ひやらるゝ御文かな。何事のかくろへあるにか深くかくし給ふ」と恨みていとゆかしとおぼしたり。「何事かは侍らむ。くまぐましくおぼしたるこそ苦しけれ」とて、御硯のついでに、

 「花のえにいとゞ心をしむるかな人のとがめむ香をばつゝめど」とやありつらむ。「まめやかにはすきずきしきさまなれど又もなかめる人のうへにて、これこそはことわりのいとなみなめれと思う給へなしてなむ、いとみにくければ疎き人は傍らいたさに中宮まかでさせ奉りてと思ひ給ふる。親しき程になれ聞え通へど耻しき所の深うおはする宮なれば何事もよのつねにて見せ奉らむ、辱くてなむ」など聞え給ふ。「あえものもげに必ずおぼしよるべき事なりけり」とことわり申したまふ。この序に御方々のあはせ給ふともおのおの御使して「この夕暮のしめりに試みむ」と聞え給へれば、さまざまをかしうしなして奉れ給へり。「これわかせ給へ。誰にか見せむ」と聞え給ひて、御ひとりども召して試させ給ふ。「知る人にもあらずや」とひげし給へど、いひしらぬ匂ひどもの進み後れたるがひとくさなどか聊のとがをわき給うてあながちにおとりまさりのけじめをおき給ふ。かのわが御二くさのは今ぞとうでさ