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Page:Kokubun taikan 01.pdf/559

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うこそはめなれめとおぼしけり。大將はかく渡らせ給へるを聞き給ひていとゞしづ心なければ急ぎ惑はしたまふ。みづからも似げなきことも出で來ぬべき身なりけりと心うきに、えのどめ給はずまかでさせ給ふべきさま、つきづきしきことつけども作り出でゝ、父おとゞなど賢くたばかり給ひてなむ御暇許されたまひける。「さらばものごりしてまたいだしたてぬ人もぞある。いとこそからけれ。人より先に進みにし志の、人に後れて氣色とりしたがふよ。昔のなにがしがためしも、引き出でつべき心地なむする」とて誠にいと口惜しとおぼしめしたり。聞しめしゝにもこよなきちかまさりを、始よりさる御心なからむにてだにも御覽じ過ぐすまじきを、まいていとねたう飽かずおぼさる。されどひたぶるに淺き方に思ひ疎まれしとていみじう心深きさまにのたまひ契りてなつけ給ふもかたじけなう、われはわれと思ふものをとおぼす。御手車よせてこなた彼方のかしづき人ども心もとながり、大將もいと物むつかしう立ちそひ騷ぎ給ふまでえおはしまし離れず、かういときびしき近きまもりこそむつかしけれとにくませ給ふ。

 「九重にかすみへだてば梅の花たゞかばかりも匂ひこじとや」。異なる事なきことなれども御ありさまけはひを見奉る程はをかしくもやありけむ。「野をなつかしみあかいつべき夜を惜むべかめる人も、身をつみて心苦しうなむ。いかでか聞ゆべき」とおぼしなやむも、いとかたじけなしと見奉る。

 「かばかりは風にもつてよ花のえに立ちならぶべき匂ひなくとも」。さすがにかけはなれ