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「あさけれどいし間の水はすみはてゝやどもる君やかけはなるべき。思ひかけざりしことなり。かくて別れ奉らむ事よ」といへば、もく、
「ともかくもいは間の水のむすぼゝれかげとむべくもおもほえぬ世を。いでや」とてうちなく。御事ひき出でゝ打ちかへりみるもまたはいかでかは見むとはかなき心地す。梢をも目とゞめて隱るゝまでぞ顧み給ひける。君がすむゆゑにはあらでこゝら年經給へる御すみかのいかでか忍び所なくはあらむ。宮には待ちとりいみじう覺したり。母北の方泣き騷ぎ給ひて「おほきおとゞをめでたきよすがと思ひ聞え給へれど、いかばかりの昔の仇かたきにかおはしけむとこそは思ほゆれ。女御をも事にふれはしたなくもてなし給ひしかどそれは御中の恨解けざりし程思ひしれとにこそはありけめとおぼしのたまひ世の人もいひなしゝだに猶さやはあるべき。人ひとりを思ひかしづき給はむゆゑはほとりまでもにほふためしこそあれと心得ざりしを、ましてかくすゑにすゞろなるまゝこかしづきをして、おのれふるし給へるいとほしみにしはふなる人のゆるぎ所あるまじきをとて取りよせもてかしづき給ふはいかゞつらからぬ」と言ひ續けのゝしり給へば宮は「あな聞きにくや、世に難つけられ給はぬおとゞを口に任せてな貶しめ給ひそ。賢き人は思ひおきかゝる報もがなと思ふことこそは物せられけめ。さ思はるゝ我が身の不幸なるにこそはあらめ。つれなうて皆かのしづみ給ひし世のむくいはうかべしづめいと賢くこそは思ひ渡い給ふめれ。おのれ一人をばさるべきゆかりと思ひてこそは、一年もさる世のひゞきに家より餘る事どもゝありしか、それをこの