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Page:Kokubun taikan 01.pdf/552

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しにひき入りつゝまじらむこと後の世までいみじきこと」と泣き給ふに、皆深き心は思ひわかねど、うちひそみて泣きおはさうず。「昔物語などを見るにもよの常の志ふかき親だに時にうつろひ人にしたがへばおろかにのみこそなりけれ。ましてかたのやうにて見る前にだに名殘なき御心はかゝり所ありてももてない給はじ」と御めのとどもさし集ひてのたまひなげく。日も暮れ雪降りぬべき空の氣色も心ぼそう見ゆる夕なり。「いたうあれ侍りなむ。はやう」と御迎の君達そゝのかし聞えて御目おしのごひつゝながめおはす。姬君は殿いと悲しうし奉り給ふならひに見奉らではいかでかあらむ。今なども聞えでまたあひ見ぬやうもこそあれとおぼすにうつぶしふしてえ渡るまじとおぼしたるを、「かくおぼしたるなむいと心うき」などこしらへ聞え給ふ。只今も渡り給はなむと待ち聞え給へど、かくくれなむに、まさに動き給ひなむや。常により居給ふひんがしおもての柱を人に讓る心地し給ふも哀にて、姬君ひはだ色の紙のかさね唯いさゝかにかきて柱のひわれたるはざまに笄のさきしておし入れ給ふ。

 「今はとてやどかれぬともなれ來つるまきの柱は我れを忘るな」。えも書きやらでなき給ふ。母君いでやとて、

 「なれきとは思ひいづとも何により立ちとまるべきまきの柱ぞ」。御前なる人々もさまざまに悲しく、さしも思はぬ木草のもとさへ戀しからむことゝ目とゞめて鼻すゝりあへり。もくの君は殿の御方の人にてとゞまるに、中將のおもと、