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すべき故は有りけり」とて、とみにもゆるさで、もたまへればうつたへに思ひも寄らで取り給ふ御袖を引き動かしたり。
「同じ野の露にやつるゝ藤袴哀れはかけよかごとばかりも。みちのはてなるとかや」。いと心づき無くうたてなりぬれど、見知らぬさまにやをら引き入りて、
「尋ぬるに遙けき野邊の露ならば薄紫やかごとならまし。かやうに聞ゆるより深き故はいかゞ」との給へば、少しうち笑ひて「淺きも深きも覺し分く方は侍りなむと思ひ給ふる。まめやかにはいと辱きすぢを思ひ知りながら、え靜め侍らぬ心の中をいかでしろしめさるべき。中々覺し疎まむが侘しさにいみじくこめ侍るを、今はた同じと思ひ給へ侘びてなむ。頭中將の氣色は御覽じ知りきや。人の上になど思ひ侍りけむ。身にてこそいとをこがましくかつは思ひ給へ知られけれ。中々かの君は思ひさまして終に御あたり離るまじき賴みに思ひ慰めたる氣色など見侍るもいと羡ましく妬きに、哀とだに覺し置けよ」などこまやかに聞え知らせ給ふ事多かれど、傍ら痛ければ書かぬなり。かんの君やうやう引き入りつゝむつかしと覺したれぼ「心憂き御氣色かな。過ちすまじき心の程はおのづから御覽じ知らるゝやうも侍らむものを」とてかゝる序でに今少しも漏さまほしけれど「あやしく惱ましくなむ」とて入り果て給ひぬればいと痛くうち歎きて立ち給ひぬ。中々にもうち出でゝけるかなと口惜しきにつけても、かの今少し身にしみて覺えし御けはひをかばかりの物越しにても、仄かに御聲をだに、いかならむ序でにか開かむと安からず思ひつゝお前に參り給へれば、出で給ひて